5月3日(土)12:30〜13:00
5月8日(木)11:20~11:50 再放送
NHK教育テレビ
「すくすく子育て」 りんたろーさんと丸山桂里奈さんといっしょに
テーマは「寝返り・ハイハイ・あんよ」
出演させていただきました!
ここから先は、院長本田が最近思っている長〜い独り言です。
違う世界の方にはピンとこないかもしれませんし、
同じ世界の方には、ちょっとデリケートな話かもしれません。
でも、これを機に発信してみることにしました。
長い文章でごめんなさい。
でも、子どもたちの未来のために、どうしても伝えたいと思います。
【あかちゃんの健診で最近思うこと】
最近の乳児健診で、こんな場面に出くわします。
ママ「(生後)3ヶ月で寝返りできるんです!」
小児科医「すごいね〜、早いね〜!」
ママ「うちのこ、ハイハイしなくて、(生後)7か月でつかまり立ちしてるんです。大丈夫ですか?」
小児科医「ハイハイしなくても、立っているならだいじょうぶ!」
いやいや・・
本来の寝返りって、ハイハイってそんなに単純じゃない。
3ヶ月の寝返りは「反り返り」による寝返り。
寝返りって、単に横に転がる動作ではなく、
・手が体の正中線を越えて反対側に届くようになって
・骨盤をたてて(後傾させて)、しっかり両足をあげて
・肩や肘でしっかり体をささえられるようになって
・左右差のないバランスのとれた動きが育って
ひとつひとつの大切なプロセスを積み上げて、
はじめて本当の“寝返り”になります。
運動は姿勢の連続。
発達は「積み重ね」がとても大切。
でも今の育児環境は、(おとなにとっての)便利な育児グッズの影響もあり、
順序を飛ばしても、
早く動くこと=いいこと
と誤解されがちです。
寝返りからズリバイ・ハイハイ、つかまり立ち
と移行していくはずが、
反り返りの強い赤ちゃんが、早い時期から寝返りをしたり
ハイハイをせずに、つかまり立ちしてしまう
本来、ハイハイは両手と両膝でしっかり体重を支え、カラダの軸の伸展や回旋、体幹の安定、左右のバランス・体重移動などを育てる重要な発達過程です。
でも、現場では“寝返りができた・ハイハイした・立った”という
発達のマイルストーン(道しるべ)しか見ていない健診が少なくありません。
あかちゃんが今の運動発達にどうやって至ったのか、動きや姿勢の「質」や「過程」が見られていないのです。
健診で確認するべきことは
「なにができるか(発達の量)」
ではなく
「どうやって、できているか(発達の質)」です。
今の育児環境は、とても便利で快適(おとなにとって)です。
育児も効率的でコスパの良いことが重視されがちです。
でもその「快適さ」は、あかちゃんにとっての「不自由さ」になっていることも少なくありません。
たとえば、、
まだ首がすわらない新生児期から使える縦抱き抱っこ紐
→おとなは両手が使えるし、腰も楽ちん。スタイリッシュでおしゃれ。(桂里奈さんも、縦抱きに憧れてた!と仰ってました)
でもあかちゃんにとっては、まだ姿勢を保てずに反り返りがちに。
たとえば、
ぐっすり眠れるからと「おくるみ」で寝かせる
→モロー反射や指しゃぶりなどの原始反射は発達を促すためのスイッチとしてとても大切。包まれることで反射が抑えられてしまうことも。
たとえば、
「泣かせない育児」が推奨される風潮
→抱っこばかりされていて、おとなしいあかちゃん。
「泣くこと」は体を作ること、コミュニケーションの学び。そんなあかちゃんにとって、大切な経験が奪われてしまう。
(胸筋や腹筋が働かないから臍ヘルニア・便秘・風邪を引いてもなかなか治らない・昼間疲れないから夜寝ない、、、あかちゃんが本当に多い!)
安全を考えて、あかちゃんはサークルの中で過ごすことが多い。
→ゴロゴロしたり、ハイハイしたりが出来ず、運動が制限されてしまう…
そして
最近の小児医療では、あかちゃんの頭のかたち(歪み)に対してヘルメット治療を推奨する動きがあります。
とくに頭のかたちを気にする日本人
頭の歪みは、頭蓋骨の癒合異常などの病気を除けば、
「胎児期の姿勢」「運動の左右差」「環境による向き癖」「自発運動の制限」などが背景にあって、どの子にも認められるものです。
それなのに「形を矯正するためにヘルメットを」という早期の判断が、結果的にあかちゃんの運動発達をさらに制限してしまうこともあるんです。
「頭が歪むと、将来メガネが合わないかもしれない」
「噛み合わせが悪くなる」
「帽子がフィットしない」
「3D測定器ではかったら最重度のゆがみです!」
「今すぐにやらないと、効果が出ない」
そんな説明を病院やクリニックで受けて、心配になったご家族が、50万円前後の自費治療で早期からヘルメット治療を選ばれるケースも増えています。
「250gと軽量だからストレスないですよ」
体重5kgのあかちゃんの頭の上に250g・・って、体重50kgのおとなが2.5kgのおもりを頭の上に乗せてと考えたら?
「通気性が良いからムレない」
いやいや、頭、あせもだらけで受診される方もいらっしゃいます。
実際に外来に来られた生後5カ月のあかちゃん。
ヘルメットを装着していると、首も動かさず目だけを左右に動かして物を見ている・・ヘルメット外すと首や体もしっかり回旋させて(ねじって)・・ほしいものに手を伸ばしてくれる。
ヘルメットをつけること自体が、赤ちゃんの運動発達に制限をかけてしまうこともあるんです。
私はこれまで、小児神経を専門に、
脳性麻痺、染色体異常、医療的ケア児、発達障害、重症心身障害など、
「障害児」と言われる子どもたちとたくさん関わってきました。
だからこそ、子どもたちの発達の中で起こるちいさな偏りやバランスの崩れが、
どれほど重要で、
全ての生活の機能が繋がっていることを実感しています。
そして今、小児科医が“病気”の診断や治療はできても、
“発達”をきちんと見られていない現状にも、老婆心ながら危機感を感じています。
前述のヘルメット治療に関しては、海外から日本に輸入された治療法ですが、
アメリカの小児科学会もあかちゃんの頭のゆがみに対する1番最初の対応は、うつぶせ遊び(タミータイム)や左右バランスの良い自発運動の促しです。
すべてがそうであるとは言いませんが…
本来もっとも大切な
そこはすっ飛ばされて、メリットばかりで、デメリットの説明も受けないままで、治療を選択される保護者も多いです。
ヘルメットメーカーが権威あるアカデミックないくつかの小児科学会のスポンサーとなり、ブース展示やセミナーを開催。
こども専門病院でも、大学付属病院でも、地域の小児科クリニックでも
「頭のかたち外来」が次々と開設されています。
こんなスピードで自費診療が進む理由ってなんなんでしょうか・・
100歩譲って、ヘルメット治療を選択したとしても・・
そもそも頭がゆがんだ原因である運動発達はきちんと評価されているのでしょうか
ヘルメット治療中であっても、評価と状況によってはきちんとした理学療法が必要なこともあります。
頭のかたちのきれいな、発達の質の悪いあかちゃんを、
たくさん診ています。
いま、小児科は大きく変化しています。
新型コロナの流行が終わり、以前のように「風邪を診るお医者さん」ではなくなりました。
感染症はワクチンで予防できるようになり、遺伝子治療や新しい薬の登場で、
医療そのものがどんどん進歩しています。
大人の事情が関係する構造の中で、あかちゃんたちの自然な発達が犠牲になっているようにも感じています。
でも
どれだけ生活が便利になっても、
どれだけ医療が進んでも、
こどもが本来持っている
自分で“発達する力”を信じ、そこに寄り添う視点は忘れたくないと思っています。
「その子が、その子らしく育つ」——
それは、発達のマイルストーンを早く達成することではありません。
周りが焦らせたり、矯正したり、正しさを押し付けるものでもないはずです。
私が診てきたすべての子どもたちが、「愛される価値」と「愛する力」を持っていました。
それを守るのが、わたしたち大人の役割であり、小児科医の使命でもあると思っています。
お付き合いいただきありがとうございました。